岸名大輔 設計事務所 BAUM代表(一級建築士)

岸名大輔は設計事務所の代表である。2014年、福井市内に開業した事務所の名前は「BAUM」(ドイツ語で「木」の意味)。
一級建築士として、主に住宅や店舗を手掛ける。最近では多目的ビルの設計にも携わるなど、着実に活動範囲を広げている。

祖父と父の仕事を見て感じた
作ることの面白さ

祖父の代から実家が製材所で、父も社寺建築の設計・現場監理をしていました。その影響で、子どもの頃から建築やモノづくりには興味がありましたね。中学の時に、父の設計で、祖父が山から切り出してきた材木を使って家を建てたんです。その様子を間近で見ていたので、「作ることって面白いなあ」と。家具づくりにも興味があって、高校受験に落ちたら家具職人になろうとか、大学受験で受からなかったら家具作りの専門学校へ進もうとか思っていたくらいです。サッカーも好きで、小学生の頃から大学まで熱中していました。下手くそだったけど、リアルに「サッカー選手になりたい」と思った時期もありました。

「将来は設計の仕事がしたい」
大野を出て大学進学、そして就職

卒業後は金沢大学の工学部土木建設工学科に進みました。道路や橋、都市計画などについて学ぶ学部です。建築について直接学べる学部ではなかったんですけど、高校の先生の勧めもあって決めました。その頃には、漠然と将来は建築の仕事がしたいと考えていました。
大学卒業後も大野には戻らず、富山の建設会社に就職。今ならインターネットで検索して、福井や大野の設計事務所を探すこともできますが、当時はとにかく情報量が少なかった。だから大野で働くという選択肢はなかったですね。それに一度は大野を出て、誰も知り合いがいない環境で仕事がしたいと思いました。

僕の「大野へかえろう」

富山の建設会社には半年ほど勤めました。その後、福井の建設会社に転職して、大野の実家に帰りました。いろいろあって帰らないといけない状況になったんですが、正直に言うと、その時は大野に戻りたくはありませんでした。将来は県外とか、海外で仕事がしたい、そんな風に考えていましたから。でも僕は長男で、いずれは実家に帰らなければならない。大野を出る時は、それがすごく嫌だった。だから、帰らなくちゃいけなくなった時はすごく悩みましたね。自分の人生なんだから、自分の好きなようにしたい、でも僕は長男だし・・・と。

だけど、福井や大野では面白い仕事ができないのかといったら、そんなことはないと思うんですね。今はインターネットのおかげで、どこにいても仕事ができる。地方でもおもしろい仕事をしている人はたくさんいます。福井で仕事をしていることをハンデだと思うのは言い訳に過ぎないのではないか。そんなふうに頭を切り替えたんです。最終的には、家族と一緒に暮らすために大野に帰ろうと決心しました。

「一級建築士、受かったよ」
吉報はトンネルの中で

新たに就職した福井の建設会社には、大野の実家から通いました。そこでは営業、現場監督、積算など、多くの部署を経験しました。現場での作業も多く、一級建築士の合格の知らせを聞いたのも、現場のトンネルの中です。会社の女性社員から携帯に連絡があり「受かってたよ」って。周りの騒音がうるさくて、聞き取りにくかったですけど。その会社には3年在籍していろいろな経験をさせてもらいましたが、どうしても設計の仕事がしたいと思って退職しました。

その後に就職したのも福井の建設会社です。今度こそ設計の仕事をするためでしたが、「設計の前に現場監理の仕事をさせて下さい」とお願いして入社しました。というのも、「現場のことを理解していない設計士にはなるな」と現場の大工さんや職人さんからよく言われていたので、少しでも現場のことを勉強したいと思って。初めて設計を手掛けたのは入社して1年半が過ぎてから。戸建ての住宅でした。

「渡りと景」── 使い勝手とデザイン
そのバランスを考え抜くこと

その会社に5年間勤めた後、現在の設計事務所を立ち上げました。今年の春で3年目。仕事の量は福井7割、大野3割。今は設計と施工の両方を請け負っていますが、自分にはどちらのスタイルが合っているのか、まだ見極め中です。

建築物という「残るもの」を作るのが嬉しいのではなく、「モノの形」を考えるのが楽しいですね。だから家具とか、プロダクトデザインにもすごく興味があります。モノの形を考えるとき大切にしているのは、使い勝手とデザインのバランス、「渡りと景」という言葉です。「渡り」は「用」とも言われますが、実用の用で使い勝手のこと。「景」は景観の景でデザインのこと。茶道の千利休は「渡り(用)六分に景四分」、その弟子の古田織部は「渡りが四分で、景が六分」と言っています。その割合はともかくとして、ポイントは「使い勝手とデザインのバランスが大事」ということです。そのバランスを自分なりに考えることが僕の課題ですね。たとえば住宅なら、その人に合った使い勝手とデザインのバランスを導き出して提案するということです。

どんな仕事も大変だと思うのですが、自分の仕事で言うと、やはり金額が大きいことですね。家は一生で一番大きな買い物と言いますが、個人のお客さんにとって、住宅の購入資金はものすごく大きなお金です。僕たち、住宅作りに関わる者は、その責任を負っているので、プレッシャーは半端じゃないです。お客さんが満足し、自分も納得できるものを作りたい。洋風・和風などの好みや生活スタイル、予算、家族構成、立地など、お客さんの条件は一人ひとり違います。その条件の中で、このお客さんに合った家とはどういうものなのか、そこを考え抜くことの繰り返しですね。大変だけど、とてもやりがいのある仕事です。

現在、企業からの依頼でおもしろいプロジェクトが進行中です。僕にとってこれ程大きな規模のプロジェクトは初めての経験でとても緊張しています。と同時に大きなチャンスでもあり鼻息は荒くなっています。依頼してくださった企業のため、そして自分自身のためにも、良い仕事をしたいと張り切っています。

岸名より、若い人たちへ

インターネットやSNSを活用すれば、作るものの種類によっては、どんな場所でも仕事ができる時代です。だから、大野に帰ってきても、帰らなくてもいいけれど、「仕事がないから」「面白い仕事ができないから」というのは、もう帰ってこない理由にはならないと思う。大企業に勤めたいとか、そこでしかできない仕事がしたいなら別だけど、おもしろい仕事がしたい、楽しく生活していきたいという人に、大野で暮らすことはハンデにならないから。

ただ、自分で商売をしていこうとすれば、それなりのスキルは必要だから、それを身に付けてから帰ってきてもいいかな。もちろん、大野でスキルを高めるのもいいけれど。

僕は大野の実家に戻り、設計事務所は福井市内に開業しました。カッコいいことも言ったけど、まだまだ大野より福井での仕事の方が多いから。将来はもっと知名度を上げて、大野にいても、市外や県外から仕事の依頼が来るようになればいいなと思います。

  • 休日の過ごし方
    基本的に日曜が休日。
  • 岸名大輔

    1983年生まれ
    設計事務所 BAUM代表(一級建築士)

  • 子どもと遊んだり、スープカレーを作ったり、サッカーをしたり(大野のチームに所属しています)。

  • 休日の過ごし方

    基本的に日曜が休日。子どもと遊んだり、スープカレーを作ったり、サッカーをしたり(大野のチームに所属しています)。

  • 岸名の経歴

    大野高校 → 金沢大学 → 建設会社で営業(富山) → 建設会社で営業、現場監理、積算(福井) → 建設会社で現場監理、設計(福井)
    → 設計事務所開業(福井)

  • 岸名の一日

    7:00
    起床 朝食
    8:00
    子どもを保育園へ送ってから出勤
    9:30
    始業 設計、現場打合せなど
    17:30
    定時(終業時間は日によって異なる)
  • 岸名の座右の銘

    渡りと景と 岸名大輔